慢性疾患のある子どもたちは、日々の生活の中で多くの困難に直面します。しかしその一方で、自分の病気をきちんと理解し、前向きに日常生活を送る子どもたちの姿に、たくさんの勇気をもらうことも。
病気を受け止め、病気とともに生きていくということは、子どもにとっても家族にとっても、大きな課題です。今回は、子どもが病気をどう理解し、周囲とどう関わっていくか、年齢ごとのアプローチや家族・学校との連携方法について詳しくご紹介します。
自分の病気を知ったときどう感じた?

病気の告知を受けたときの子どもの反応はさまざまです。年齢・病状・性格、そして家庭環境によって大きく異なりますが、今回は「小児がん経験者の体験談」から見えてきたことを解説します。
「知らなかった」が「知ってよかった」に変わるとき
小さい頃に手術をしていたけれど、病気の詳細を知ったのは18歳の時。「命に関わる病気」と知ったときはショックだったが、物心がついてから知ることができてよかった。
上記の声からは、子ども自身が「病気を知らされるタイミング」の重要性が見えてきます。幼い頃はあえて伝えられていなかった病気の詳細を、大人になってから知ることで、自分の過去や身体への理解が深まり、納得感につながったことがうかがえます。
突然知ってショック…でも「治療中=治る可能性がある」と受け止めた
小学6年生の時にパソコンのブックマークから病名を知った。がんと知ってショックだったが、治療中ということは「治るんだ」と前向きに受け止められた。
上記のエピソードでは、「がん」という言葉のインパクトに驚きつつも、親がきちんと説明してくれたことで安心できた様子が伝わってきます。子ども自身が「言葉の意味」以上に「今、何をしているのか」に焦点を当てていることがわかります。
真実を知ったのは「ずっと後」だった
13歳、退院する日に初めて主治医と両親から説明を受けたが、実は2ヶ月前に知っていた。母の手紙で「悪性新生物」と書かれているのを見てしまい、親も言い出せずにいた。
このような「子どもが先に気づいている」ケースでは、親の葛藤も強く、伝えるタイミングに悩んでいたことが伝わってきます。本人はショックを受けつつも、「やっぱりそうだったんだ」と感じることもあるため、気づきを尊重し、早めの対話が望まれます。
がんと聞いたときの衝撃と「早く知ってよかった」という想い
風邪がなかなか治らずに病院へ。まさかのがん告知。治療の辛さを知って家族と泣いたが、早く病名を伝えてもらえてよかったと思っている。
突然の告知で衝撃を受けながらも、「早く教えてくれたおかげで覚悟ができた」「治療の意味を理解できた」という前向きな捉え方が印象的です。子ども自身が「知ることによって乗り越える力を得る」場合もあるということを示しています。
知ることで不安が増すこともある
白血病と知ったのは、搬送されたその日。ネットで調べたら骨髄移植が必要かもしれないと知り、さらに落ち込んだ。
上記のケースは、情報社会の今だからこそ起こりうる「知りすぎる不安」の代表例です。大人がそばにいて、「一緒に調べて確認する」「怖い情報だけで判断しない」ようにサポートすることが、より一層大切になっています。
自分の病気をどう理解していく?〜子どもたちの声から学ぶ、サポートのヒント〜

先述した子どもたちの声から、子どもが自分の病気を理解していく過程には、大人の「伝え方」と「関わり方」が大きく影響することがわかりました。
年齢の低い子どもにはやさしい言葉と安心できる雰囲気を、思春期には正確な情報と対等な対話を意識することが大切です。
病名を知ったときショックを受けても、「治療でよくなるんだ」という希望を持てるよう支えることで、子ども自身が病気と向き合う力が育まれます。
また、隠すよりも、本人が気づいたサインを見逃さず、一緒に考える姿勢が不安の軽減につながるでしょう。
両親から子どもに病気のことをどう伝える?

子どもが病気になったとき、「どこまで、どう伝えるべきか」は多くのご家族が悩むテーマです。病名や治療の内容を正直に話すべきか、それともまだ伝えない方がいいのか。年齢や性格によって受け止め方が違うからこそ、伝えるタイミングや方法には細やかな配慮が必要です。
実際の子どもたちの声からは、「知ってよかった」「もっと早く知りたかった」「なにも知らされずに不安だった」といった、さまざまな気持ちが語られています。
ここでは、子どもが前向きに治療と向き合えるような伝え方について、年齢や発達に応じた工夫を紹介します。
タイミング
病気の告知は、子どもの年齢や理解度、心の準備に応じて「今、話すことがこの子の力になるか?」を軸に判断することが大切です。ある子は「知らなかったけど、物心がついてから知れてよかった」と話しており、大人が焦って伝えなくても、親の気持ちが落ち着いてからで大丈夫。大切なのは、子どもにとって安心できる環境で、丁寧に向き合うことです。
伝えるポイント
- 正確な情報を、子どもに合った言葉で
たとえば小学生には「お腹にばい菌がいて、お薬でやっつけるんだよ」という説明が伝わりやすいです。 - 安心感をもたせる
「あなたのせいじゃないよ」「うつる病気ではないよ」といった言葉が、子どもに安心をもたらします。 - 生活の変化も伝える
治療による通院・入院、学校生活の変化などを前もって伝えることで、心構えができます。
年齢別の伝え方
〜6歳まで
絵本やぬいぐるみを使い、視覚的に「お話」として伝える方法が効果的です。まだ病気の概念が曖昧な年齢なので、「だれのせいでもない」ということを繰り返し伝えることが安心につながります。
7〜12歳
「がん」と聞いてショックを受けた子も、「でも治療してるってことは治るんだよね」と前向きに理解できたという声がありました。この年代は具体的な説明を受け止める力があるので、本人の質問に対して誠実に、分かる言葉で説明することが大切です。
思春期
自立心が強くなり、「なぜ自分だけ?」「将来はどうなるの?」という疑問を抱きやすい時期です。事実をごまかさずに伝え、「どう感じた?」と対話する時間を持つことが、信頼関係を築く鍵になります。
家族みんなで一緒に考える
病気は本人だけの問題ではありません。兄弟姉妹も含めて病気について話し合い、「みんなで支える」雰囲気をつくることが、子どもに安心感を与えます。ある子は「周りが病気を理解してくれていたことで孤独を感じなかった」と話しています。家族で役割を分担しながら、日常生活を一緒に乗り越えていくイメージが大切です。
周囲への病気の説明方法

子どもの病気について、友人や学校の先生にどのように伝えるかは、子どもの社会生活に大きく影響します。以下のポイントを参考にしてください。
友人への説明
「病気だけど、遊ぶことはできるよ」といった、自分が話したい範囲を子ども自身が選べるようにしましょう。強制せず、「話したいと思ったときに話せばいい」と伝えることで、子どもの主体性が守られます。
担任の先生や保健室の先生
病名だけでなく、「どのような配慮が必要か」を明確に伝えることが、学校生活の支えになります。たとえば、
- 疲れやすい/運動制限がある
- 服薬や医療ケアの必要がある
- 欠席が増える可能性がある
- 心理面のサポートが必要なことがある
上記の情報は、担任の先生だけでなく保健室の先生や学年主任とも共有できると、子どもの安心感にもつながります。
可能であれば、診断書や主治医による指示書など、第三者による書面があると先生側の理解も深まりやすく、対応もしやすくなります。
まとめ

病気を持つ子どもたちが、自分の状態を理解しながら前向きに生きていくためには、大人の関わり方がとても重要です。伝えるタイミングや言葉選び、そして子どもの気持ちに寄り添った対話が、子どもの「わかろうとする力」や「乗り越える力」を育ていきます。
また、家族や学校など周囲の理解と協力があってこそ、子どもは安心して日常生活を送れます。「知らないことで生まれる不安」よりも、「知ることで芽生える納得と希望」を大切にしたいものです。
子ども自身が「自分の病気を知ることは、自分の力になる」と実感できるように。私たち大人ができるサポートは、決して特別なものではなく、日々の言葉や関わりの中にあるのかもしれません。