小学校や中学校などに在籍している保健室の先生(養護教諭)は、ただ保健室を運営するだけでなく、子どもや教員の心のケアから関係機関との連携など、想像以上に幅広い業務をこなしています。
特に、特別な配慮が必要になる病気療養児は、保健室の先生と関わる頻度が多いでしょう。
ここでは、病気療養児が学校生活を送るうえで重要な存在となる保健室の先生には、どんな役割があるのかをご紹介します。
学校の保健室の役割とは
保健室は、学校教育法施行規則の第1条により、日本の小中学校には必須の設備とされています。ただし、高等学校については、保健室を設置する義務はありません。
保健室は、
● 健康診断
● 健康相談
● 生徒や教職員が負傷した場合の応急処置
● 健康に関する指導
など、健康に関するさまざまな役割を担います。保健室がなければ、上記の対応を円滑に提供できないため、学校の保健活動の中核的な存在と言えるでしょう。
保健室は学校内で健康に関するさまざまなニーズに応え、生徒や教職員の健康と幸福をサポートする重要な場所です。
病気療養児に関わる保健室の先生の大切な役割5つ
病気療養児とは、文部科学省によると、以下のように定義されています。
疾病による療養のため又は障害のため、相当の期間学校を欠席すると認められる児童生徒
引用:小・中学校等における病気療養児に対する同時双方向型授業配信を行った場合の指導要録上の出欠の取扱い等について/文部科学省(通知)
この病気療養児に関わる保健室の先生の主な役割5つをご紹介します。
- 児童・生徒のケアをする
- 病気療養児の健康状態の実態・疾病の内容を把握する
- 校内での病気療養児の健康管理をする
- 病気療養児を特別扱いしすぎない
- 関係者と連携して病気療養児の成長をサポートする
保健室の先生が病気療養児に関わる際の役割を中心に解説していきます。
児童・生徒のケアをする
保健室の先生は、児童・生徒の状態に合わせた心身のケアを提供する重要な存在です。
具体的には、
● 生徒の健康状態を継続的に確認する
● 必要に応じた健康管理
● 薬の管理
● 応急処置
などをメインに行います。保健室の先生が児童・生徒を適切にサポートすることで、安心して学校で勉学に励めるでしょう。また、保健室の先生は、児童・生徒が学校で抱える悩みや不安などに対しても耳を傾け、心のケアも行います。
どんな子どもたちも、学業上の問題・友人関係・学業に対するプレッシャー・将来に関する悩みなど、さまざまな問題を抱えていることが多いです。
その中でも特に、病気療養児は通常の生徒と同じ学校環境で学ぶため、通常の悩みに加えて周りとのギャップに心理的なダメージを抱えるケースも少なくありません。そのため、保健室の先生の心理的なサポートが非常に重要です。
つまり、保健室の先生は病気療養児の学校生活を全面的にサポートし、生徒たちにとっての「生徒の居場所」として機能する必要があります。
以上のように、保健室の先生は、病児療養児をケアする非常に重要で欠かせない存在です。
病気療養児の健康状態の実態・疾病の内容を把握する
病気療養児の健康状態の実態や疾病の内容をしっかり把握することも、保健室の先生の大切な役割の1つです。
『新養護概説(釆女智津江)』では、学校側が生徒の疾病の内容をしっかり理解しないままでいると、疾病へのフォローが過度になってしまい、できるはずの活動を制限してしまう危険性があると言及しています。
以上のように、保健室の先生が病気療養児を適切にフォローするためには、病気の実態や疾病の内容を十分に理解する必要があるのです。
校内での病気療養児の健康管理をする
保健室の先生は、校内での病気療養児の健康管理をする役割もあります。
病弱児の運動面を含めた校内の健康管理については、養護教諭が関心をもつべき重要な課題のひとつ。
引用:病弱児に対する養護教諭の役割に関する研究
先述したように、できるはずの活動を制限してしまうこともありますが、病気の状態を適切に把握していないと、逆に無理な注文をしてしまうこともある多いです。
そのため、病気療養児が安心して過ごすためには、病気療養児の健康管理の一環として、教職員に適切な援助法を伝えていく必要があります。
以上のように、保健室の先生は周りと連携しながら、病気療養児の健康管理をします。
病気療養児を特別扱いしすぎない
疾病の内容を理解し、健康管理を行うことは必要ですが、病気療養児を特別扱いしすぎないことも大切です。
研究で行われた本人アンケートでは、下記のような意見が多数ありました。
病気であることは知ってほしいが、特別扱いされるのは嫌だと思っていた。
引用:病弱児に対する養護教諭の役割に関する研究
病気療養児の保護者も同様に、過度な特別扱いは受けたくないと考えているようです。
以上のように、保健室の先生は病気療養児を特別扱いしすぎないことも大切です。
関係者と連携して病気療養児の成長をサポートする
保健室の先生は、関係者と連携する役割も持ちます。病気療養児を適切にサポートしていくためにも、一人で抱え込まずに周りと連携する必要があります。
主に連携が必要な相手は、以下の4名です。
- 担任との連携
- 保護者との連携
- スクールカウンセラーとの連携
- 学校医との連携
下記でそれぞれの相手との連携の仕方やポイントをご紹介します。
担任との連携
保健室の先生は、病気療養児の担任教師との連携が重要です。橋渡しというよりも、情報交換を行いながら、互いを支え合う役割が望まれています。
「症状の意味を専門的な立場から正確に伝える」
引用:病弱児に対する養護教諭の役割に関する研究
担任と連携をとるための心構えのポイントを押さえつつ、病気療養児のふとした発言や行動なども担任と共有しながら、指導計画を立てていくことが望まれているとのことです。
また、病気療養児が中学生以上の場合は、子ども自身が担任とのコミュニケーションを円滑にできるようサポートすることも大切です。
保護者との連携
病気療養児をサポートするためには、保護者との連携も欠かせません。ある論文(※1)によると、学校と保護者の連携の際に対応した教員は、(保健室の先生)養護教諭が65.1%と最も多いことが分かっています。
それにも関わらず、保護者は「保健室の先生にどうやって相談したら良いかわからない」と思っており、なかなか相談できずにいる方が多いようです(※2)
保護者とどう連携していくかは、今後の課題として考えていく必要があります。
(※1)インクルーシブ教育システム構築における慢性疾患のある児童生徒の教育的ニーズと合理的配慮及び基礎的環境整備に関する研究
(※2)病弱児に対する養護教諭の役割に関する研究 p100
スクールカウンセラーとの連携
保健室の先生はスクールカウンセラーとの連携も密に行う必要があります。
『病弱児に対する養護教諭の役割に関する研究』によると、病気療養児の中でも特に、「心理的配慮が必要だと思われる疾患を持つ子ども」の場合は、スクールカウンセラーとの連携が重要とされています。
スクールカウンセラーを導入したところで問題がすべて解決するわけではありませんが、保健室の先生とスクールカウンセラーがうまく連携できれば、問題の早期発見・早期解決が期待されるというわけです。
学校医との連携
『病弱児に対する養護教諭の役割に関する研究』によると、学校医と連携できている保健室の先生は少なく、今後の課題とされています。
しかし、関わる子どもが難病を抱えている場合は特に、より専門性の高い学校医と連携する必要があります。うまく連携できれば、学校内での急な対応も可能になるとのことです。
連携の大切さを保健室の先生が理解し、うまく連携できていない場合は、連携機関への積極的なアプローチが求められます。
まとめ
保健室の先生には役割が盛りだくさんあることがわかり、改めて重要なポジションだとお分かりいただけたのではないでしょうか。
一方で、業務過多や負担が大きくなってきているのも事実であり、働き方の見直しが必要だという声もあがっています。
保健室の先生には重要な役割がたくさんあるからこそ、一人で抱え込まず、関係者や関係機関と積極的に連携して、病気療養児のサポートに取り組む必要があると言えるでしょう。
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