病気療養中でも子どもたちが平等に学ぶ権利を保障するために院内学級があります。「院内学級」には、入院中でも子どもたちが子どもらしく勉強したり、友達と遊んだり、交流するなど、たくさんのメリットがあります。
本記事では、その院内学級の存在意義や課題をご紹介します。
院内学級とは
院内学級とは、病院内に場所を借りて設置してある、病気(やケガ)によって入院した子どもたちを対象にした学校(学級)の俗称です。病院に隣接する学校に、入院中の子どもたちが通っていく場合もあります。
一時的に地元の学校から転校することで、『いわゆる院内学級』に通うことができます。
学校なので担任の先生がいて、各教科の学習はもちろん、友だちと遊んだり活動したりとさまざまな体験ができます。
院内学級の存在意義
院内学級の存在意義は、主に以下の5つです。
- 入院中でも学ぶ機会を保障する
- 同じように闘病する仲間を作る
- 病室での孤独・寂しさを解消
- 地元の学校担任や養護教諭との連携
- 医療や保護者以外の教育的関わり
それぞれの詳細を下記で説明します。
入院中でも学ぶ機会を保障する
院内学級は、病気やけがのために入院しなければならない子どもたちにとって、学び続ける機会を保障する重要な場所です。
入院中であっても通常学級と同じように学べるため、学習の遅れを最小限に抑えられます。そのため、長期入院の必要がある子どもでも、退院後の学業に円滑に復帰できるでしょう。
同じように闘病する仲間を作る
院内学級に通うことで、同じように闘病する仲間を作れます。入院中はさまざまな悩みを抱える子どもも少なくありません。そのため、同じ境遇にある仲間に出会えることで、互いの支えとなり、精神的な面でも励まし合えるというわけです。
病室での孤独・寂しさを解消
入院中、子どもたちは家族や友達と離れて、病室で長い時間を過ごすことが多いです。そのため、孤独感や寂しさを感じることがあります。
友達と一緒に学び・遊び・笑顔を共有できる院内学級に通うことで、これらの孤独感や寂しさを緩和できるのです。
また、院内学級に子どもが通っている時間は、保護者もひとりの時間ができます。もちろん、入院生活のため洗濯や入浴、食事の準備、学校への連絡なども必要ですが、子どもと離れて一人の時間ができることで、保護者同士で悩みをする様子も見られます。
地元の学校担任や養護教諭との連携
院内学級の担任は、地元の学校担任や養護教諭と連携を取り、子どもたちを手厚くサポートしてくれます。サポートがあることで、入院期間中も地元の学校とのつながりを保つことが可能になるのです。
退院後、円滑に復学するためにも、院内学級と地元の学校の連携・情報共有は欠かせません。
医療や保護者以外の教育的関わり
院内学級があることで、子どもたちは医療関係者や保護者以外の人との教育的関わりを持てます。院内学級の担任は、特別支援教育の指導要領に基づく教育を行うため、それぞれの子どもたちの適切な環境で教育的ニーズを満たせるのです。
そのため、院内学級の子どもたちの教育は最大限サポートされます。以上のように、院内学級では、医療や保護者以外の教育的関わりが持てます。
院内学級の設置数と現状
全国病弱虚弱教育研究連盟の調査(令和3年)によると、院内学級の数と在籍児童数は以下の通りです。
(全国) | 施設数 | 在籍児童数 |
小学校 | 119施設 | 253人 |
中学校 | 80施設 | 155人 |
合計 | 199施設 | 388人 |
2年前の令和元年度の施設数に比べると、小学校は37施設増え、中学校は22施設増えています。ただし、全体として院内学級は増えていますが、地域差があるのが現状です。具体的には、北海道や九州地方では、ほとんど数が変わっていません。
また、高校の院内学級については、上記研究でも実態をつかめておらず、国でも数は把握されていないのが現状です。大阪教育大学の平賀 健太郎 准教授は、高校の場合は義務教育ではないことやその他さまざまな理由により、高校の院内学級はなかなか普及しないと言います。
とは言っても、院内学級がない場合、学習する機会を保障できません。復学も困難になり、所属している高校を留年してしまうこともあります。
以上のように、院内学級の数には地域差があることや高校の院内学級は普及していないことがわかりました。
院内学級の課題
院内学級の課題はまだまだあります。主に以下の4つです。
- 社会・教育者の病弱教育への理解不足
- 院内学級の担任による復学後の支援不足
- 二重在籍ができない
- 病弱教育の教職員を養成する場所の不足
それぞれの課題を深掘りします。
社会・教育者の病弱教育への理解不足
1つ目の課題は、社会・教育者の病弱教育への理解不足です。病気を抱える子どもたちのニーズに応えるためには、社会全体の理解とサポートが不可欠です。しかし実際には、以下のような理由で、病弱教育への理解への普及が難しくなっています。
- 病弱教育を社会全体で特別扱いされていること
- 学校教育で病気に関する教育が十分にされていないこと
- 教育関係者でも病弱教育に対しての理解が十分でない
下記でそれぞれについて説明します。
病弱教育が社会全体で特別扱いされていること
1つ目の問題点は、病弱教育が社会全体で特別扱いされていることです。健康な人にとっては、病気を抱えた子どもたちは関係ない存在と感じていることがあります。
しかし、これはまったくもって誤った見方です。誰もがいつか病気やケガに見舞われる可能性があることを忘れてはなりません。
学校教育で病気に関する教育が十分にされていないこと
2つ目の問題点は、学校教育で病気に関する教育が十分にされていないことです。現在の学校教育では、病気に関する内容を正しく学ぶ機会が設けられていないため、病気を持つ子どもたちに対する誤ったイメージが広がっています。
教育関係者でも病弱教育に対しての理解が十分でない
3つ目の問題点は、教育関係者であっても病弱教育に対して十分に理解があるとは言えないことです。病弱教育の正しい知識を持つことは、病気の子どもたちを適切にサポートするために必要です。しかし実際のところは、教育者によって理解にばらつきがあります。
以上のように、病弱教育に対する理解不足は、社会と学校教育の両面において根本的な問題となっています。
院内学級の担任による復学後の支援不足
2つ目の課題は、院内学級の担任による復学後の子どものサポートが不足していることです。担任は復学後の子どもを気にかけてはいるものの、子どもたちのニーズに対応するシステムやサポートが不足しているのが現状です。
この問題に対処するためには、子どもたちが退院後にも適切な教育と支援を受けられる制度としての仕組みを整備する必要があります。
以上のように、院内学級職員による復学後の支援不足は、院内学級の課題の1つです。
二重在籍ができない
3つ目の課題は、元々いた学校と院内学級に二重在籍ができないことです。二重在籍ができないことで、病気の子どもたちに多くの弊害をもたらしています。
例えば、地元の学校と院内学級との二重学籍が可能であれば、子どもたちはどちらの学校にも通うことが可能です。そのため、入院か自宅療養かによって通う学校を自由に選択できます。しかし、法律上の制約により、この理想は実現が難しいのが現状です。
以上のように、院内学級には、二重在籍できないという法的な壁が存在します。
病弱教育の教職員を養成する場所の不足
4つ目の課題は、病弱教育の教職員を養成する場所の不足です。この問題が病弱教育の発展に制約をかけているとも言えるでしょう。
病弱教育に対する予算の不足も深刻な問題です。病弱教育の領域では、場所・教育者・設備などにさまざまな適した環境が必要になります。しかし、環境を整備するための十分な資金が確保できないのが現状です。病気を抱える子どもたちに対する適切な教育を提供するためには、予算の増額や適切な資金配分が必要となるでしょう。
院内学級では、以上4つの課題があります。これらの課題に適切に対処することで、院内学級を利用する子どもたちの教育やサポート体制がより充実するはずです。
まとめ
院内学級についてご紹介しました。今この瞬間も病気やケガの治療を続けている子どもたちに、たくさんの存在意義がある院内学級ですが、まだまだ課題は山積みです。子どもたちに適切なサポートをするためにも、社会全体で1つずつ課題を解決していく必要があります。
ポケットサポートでは、入院中から退院後まで継続的なサポートを行っています。
ひとり一人の子どもたちの思いや願いに寄り添いながら、保護者家族はもちろん、教育・医療の関係者とともに、子どもたちが将来への夢や希望を持ち、自分らしく暮らせる社会づくりを、みなさんと一緒に進めていきたいと考えています。